
はじめに:不動産業界の「古い体質」がさらに悪質に進化している
「不動産の囲い込み」という言葉を聞いて、ピンとくる方はかなりの不動産通かもしれません。 通常、囲い込みといえば「他社からの物件確認に対して『商談中です』と嘘をついて紹介を断る」行為を指します。
しかし今、この手口が「より巧妙に、よりひどく」進化していることをご存知でしょうか。
せっかく気に入った物件を見つけ、内見をし、意を決して購入申し込み(買付証明書)を出したのに、数日後に「売主様が別の方を選びました」と一蹴される。 一見、自由競争の結果に見えますが、その裏には「元付業者(売主側の仲介業者)による意図的な他社排除」が隠れているケースが多発しています。
今回は、この「新型囲い込み」の実態と、それがなぜ見破るのが困難なのかについて深く掘り下げていきます。
1. 新型囲い込みの巧妙なメカニズム
従来の囲い込みは、いわば「門前払い」でした。
しかし、新型は「一度家の中まで招き入れてから、最後の一歩で崖から突き落とす」ような手法を取ります。
その具体的な手順
- 内見は快く受け入れる: 他社(客付け業者)からの内見希望を断りません。これにより、レインズ(指定流通機構)上での露骨な拒絶を避け、一見すると「クリーンに共同仲介に応じている」ように見せかけます。
- 申し込みを「数日間」寝かせる: 買主が購入の意思を示しても、すぐには返事をしません。「売主様に確認しています」と言いながら時間を稼ぎます。
- 「自社客」を優先させる: その数日の間に、自社で見つけてきた(あるいは見つけてくる予定の)買主を優先的に売主に紹介します。
- 「信義則」を無視したお断り: 数日後、他社の担当者にこう告げます。「実は他の方からもお申し込みが入っていまして。売主様が総合的に判断して、別の方(自社の客)を選ばれました。売主様の決定なので、弊社としてはどうすることもできません」
仲介手数料を売主・買主の両方から受け取る「両手取引」を成立させるために、他社の客をダシに使い、最後は「売主の意向」というブラックボックスを盾にシャットアウトする手法です。
2. なぜ「新型」はこれほどまでに悪質なのか
この手法がこれまでの囲い込み以上に悪質な理由は、「関係者全員の労力と誠意を踏みにじっているから」に他なりません。
- 買主の期待を裏切る: 住宅購入は人生の大きな決断です。家族で話し合い、資金計画を立て、内見に足を運んだ時間は、単なる「検討」ではなく「人生の1ページ」です。それを自社の利益のために利用されるのは、精神的な苦痛さえ伴います。
- 客付け業者の努力を無に帰す: 誠実に物件を案内し、ローン打診を行い、契約直前まで漕ぎ着けた他社の仲介担当者の努力を、元付業者はあざ笑うかのように踏みにじります。
- 売主の利益すら損なう: 実際には、他社の客の方が「価格が高い」「ローン特約がない」など条件が良い場合でも、元付業者は自分の手数料のために、それらの情報を伏せたり、自社客を有利に見せる報告をしたりします。
これはもはや商習慣ではなく、「信義則(相手の信頼を裏切らないという法理)」に対する明らかな背信行為です。
3. 元付業者の不正を見破るのは「至難の業」である
残念ながら、この新型囲い込みを外部から見破り、不正を証明するのは極めて困難です。
理由①:売主の意思という「聖域」
不動産売買の最終決定権は、当然ながら「売主様」にあります。
「誰に売るか」は売主の自由であり、仲介業者が「売主がそう言った」と主張すれば、第三者がそれを嘘だと証明することはできません。
理由②:情報のブラックボックス化
売主と元付業者の間でどのような会話がなされているか、客付け業者や買主は知る由もありません。
「他社からもっと良い条件の申し込みが入っていますよ」という事実を、元付業者が意図的に伝えていない可能性があっても、それを確認する術がないのです。
理由③:プロ同士の「暗黙の了解」への甘え
残念ながら、一部の古い体質の業者や大手の各支店では「自社客優先は当たり前」という歪んだ感覚が残っている、またはあえてそのように組織的に行っていることは明らかです。誰かがそれをやりだすと、他社営業マンも「俺たちもやってやる。」という集団心理に陥るのでしょう。今だけ金だけ自分だけという極めてレベルの低い思考です。
「今回はうちが両手でやりたいから、察してくれ」という、市場原理を無視した不透明なやり取りが、信義則を形骸化させています。
4. この不条理な現状に対する「防衛策」はあるのか
売主としても、買主としても、このような「新型囲い込み」の被害に遭わないためには、以下の視点を持つことが重要です。
売主ができること
- 「一般媒介」の活用を検討する: 複数の不動産業者に依頼することで、一社による情報の独占を防げます。
ただし、一般媒介は別の理由があるため、あまりお勧めできません。 - 「両手取引」を是としない姿勢: 契約時に「他社からの申し込みも、申し込み順にリアルタイムで報告してほしい」と念を押しておきましょう。
買主ができること
- 囲い込みの噂がある会社を避ける: 大手・中小問わず、ネット上の口コミや業界内での評判(客付け業者が苦労している会社など)を事前にリサーチする。(真実にたどり着くのは難しいです。)
- あまりにも不自然な断られ方をしたら: 客付け業者の担当者と連携し、不自然な点があれば「レインズの成約報告」が適正に行われているかチェックし、行政窓口や消費者センターに相談する。
結びに:不動産業界が目指すべき姿
不動産仲介とは、単なる物件の橋渡しではありません。人と人の「想い」と「資産」を繋ぐ、極めて誠実さが求められる仕事のはずです。
今回ご紹介したような、内見までさせながら最後に自社利益のために他社顧客を排除する手法は、一時的な利益をもたらすかもしれませんが、長期的には業界全体の信頼を失墜させます。
「信義則」とは、法律以前の人としての「最低限のルール」です。
私たちユーザーも、そして誠実な不動産業者も、こうした巧妙な不正に対してNOを突きつけ、透明性の高い市場を作っていく必要があります。それには、断固とした対応をする勇気が必要です。
「その申し込み、本当に売主様が断ったのですか? それとも、あなたの欲が断らせたのですか?」
そう問いかけたくなるような現場が、一日も早くなくなることを願って止みません。
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